大阪高等裁判所 昭和25年(ナ)5号 判決
原告 前田安次
被告 大阪府選挙管理委員会
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は大阪府中河内郡矢田村村長選挙の効力に関し昭和二五年一〇月二五日被告のなした訴願棄却の裁決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする旨の判決を求め、その請求原因として、原告は昭和二二年四月五日施行の矢田村村長選挙に立候補し村長に当選したが、右選挙に関し戸別訪問をした疑で起訴され、昭和二三年四月三〇日大阪地方裁判所で罰金刑ならびに公民権を停止しない旨の判決の言渡を受けたので、大阪高等裁判所に控訴したが、昭和二五年六月一〇日控訴棄却の判決があつて、原判決が確定した。それで矢田村選挙管理委員会は右判決の確定によつて原告の村長当選を無効とし、昭和二五年七月二八日再選挙を施行したが町村制第一二條第一項、第六一條、第六一條ノ二、第七〇條第一項によれば町村長当選者は選挙権及び被選挙権を有する限りその地位を失うことがない。從つて原告は前記判決で罰金刑の言渡をうけたが、なお選挙権及び被選挙権を有する旨を宣告せられたので、村長の資格を失わず、依然として村長の職にあるものであるから、右原告の当選を無効とし再選挙を施行したのは違法である。よつて原告は昭和二五年七月二八日施行した矢田村村長再選挙の効力に関し矢田村選挙管理委員会に対し異議の申立をしたが同委員会は異議不成立の決定をしたので、更に被告に対し訴願を提起したところ、被告は昭和二五年一〇月二九日訴願棄却の裁決を爲し、該裁決書は同年一一月一日原告に交付せられた。然し右裁決は前記違法な再選挙を有効として原告の異議を容れなかつた矢田村選挙管理委員会の決定を維持する不当の裁決であるから、これが取消を求めるため本訴請求に及ぶと述べた。
被告は原告の請求棄却の判決を求め、答弁として原告が請求原因として主張する事実はすべてこれを認めるが、地方自治法附則第一二條町村制第六一條ノ一五、第三七條、衆議院議員選挙法第一三六條によれば原告の当選は右判決の確定によつて当然無効となり、矢田村村長の再選挙をしたことは正当であつて、右再選挙を有効として原告の異議を容れなかつた矢田村選挙管理委員会の決定は勿論、これに対する原告の訴願を棄却した被告の裁決は相当であつて、原告の本訴請求は失当であると述べた。
三、理 由
原告主張の請求原因たる事実はすべて当事者間に爭がなく、本件における唯一の爭点は、原告が昭和二二年四月五日施行の矢田村村長選挙に立候補し村長に当選したが、右選挙に関し原告が戸別訪問をした疑で起訴せられて罰金刑竝びにいわゆる公民権を停止しない旨の判決を受け、同判決が昭和二五年六月一〇日確定したことによつて、原告の右当選が無効になるか否か、ひいては右当選を無効として昭和二五年七月二八日施行せられた矢田村村長の再選挙が違法であるか否かにあるので、考えて見るのに、地方自治法附則第一二條によると、この法律施行前町村制又はこれに基いて発する勅令によつて行つた選挙に関しこれらの法律において準用する衆議院議員の選挙に関する罰則を適用すべきであつた行爲についてはなお從前の例によるとあつて、町村制施行当時行われた本件矢田村村長選挙における原告の当選及び選挙違反の行爲についてはなお從前どおり町村制第六一條ノ一五によつて町村制第三七條、衆議院議員選挙法第一三六條の準用があり、同法第一三六條によつて原告に対する前記罰金刑の判決が確定すると同時に原告の当選は無効となるものであつて、同法第一三七條に從い、原告が同判決においていわゆる公民権を停止しない旨の宣告をうけたとしても、同法第一三六條によつて生じた当選を無効とする効力までも消滅せしめるものではないと解するを相当とすべきが故に、原告の当選を無効として施行せられた矢田村村長の再選挙は適法且つ有効であつて、これを有効として右再選挙の効力に関する原告の異議を容れなかつた矢田村選挙管理委員会の決定は勿論、これに対する原告の訴願を棄却した被告の裁決も相当であつて、これが取消を求める原告の本訴請求はその理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担については民訴第八九條を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 大島京一郎 林平八郎 大田外一)